施主 角田祐介氏(福島県只見町)
施工 (株)米住建設(山形県米沢市)
着工 平成20年8月~竣工 同年9月末
工事内容 全面断熱改修
総工費 約1300万円 2008.4.19
はじめに
>断熱改修に挑んだ若者奮闘記(前編)
昭和40年と50年の前半に私は福島暮らしの経験があるので、只見町の冬がどんなものかおおよそは知っている。ある真冬、磐越西線の凍てついた車窓から見えた雪景色は関東生まれの私にとって異様なものだった。雪の中に立つ電柱は半分の長さしかないし、裸木は幹が雪に埋もれ、枝だけが雪にあえぐように首を出していた。雪原の向こうには屋根しか見えない家々が並んでいた。それはまだ只見の入り口会津だった。だから、この人から只見で家を断熱改修したいというメールを受けたとき、私はすぐに何とかしてやりたいと思った。そしてメールのやりとりをして行く中、その明晰な一言一句に惹かれこの人はどんな人なのか、そんな興味も持った。そして、その人が28歳の若者だと知ったとき、私は何としても実現させてやりたいと強く思った。マグレポート42号断熱改修編第15回はちょっと趣向を変えて、彼からもらったメールを時系列で紹介することにした。読者が断熱改修の技術とは別質の、しかし、何か大切なものを感じ取ってくれることを期待して。
2009.2.筆者(新住協理事 会沢
初めてメールいたします。
こちら福島県只見町在住の、角田祐介(つのだゆうすけ)というものです。
町の教育委員会に勤務しております。昭和60年頃に建築した住宅の改修を考えています。土地柄、日本有数の豪雪地帯であること、また外気温が低いこと、和のデザインに優れているものに考慮した改修をしたいと思っていたところ、こちらのサイトにたどり着きました。
実は新住協の会員でもある福島県いわき市の「豊田設計事務所」の豊田所長が、以前に只見町の学校新改築を手掛けている実績がありましたので、少し相談させていただいていました。
しかし断熱リフォームは、きちんと施工出来るかどうがカギであり、現場で何が起こるか予測不能な改修工事の監理には、瞬発力が要求されるので、距離が離れすぎているという理由で(いわき市から片道約4時間)、当然ですが、やんわり断られてしまいました。
出来れば同じ会津近隣地区に、断熱に精通した方がいらっしゃるといいなぁと思っておりますが、宣伝がヘタなのか、本当にいないのか分かりませんが、ネット上からは検索できませんでした。
私の住む只見町では残念なことに、住宅展示場のキレイな設備に心を躍らされるのか、ハウスメーカーの物件が増えてきました。建て主は満足していますが、『断熱性能は良くない』と思われる家が多いです。
3mも積もる豪雪、身も凍る寒さに耐え忍んできた地域なので設備が新しいと暖かく感じるのかもしれません。
私は、豊田さんが邑建築事務所時代に設計した学校や、寮の暖かさを感じているので、あの快適感が忘れられません。
私が断熱改修することで、近所の方や友人が、断熱の重要性、快適性を感じてもらえれば、この地域でもそういった家が増えるかなあと思います。
よい設計監理、施工で断熱改修を成功させたいと思っておりますので、何かアドバイスをいただけると幸いです。よろしくお願いいたします。
2008.4.27
お忙しいところ、いつもアドバイスくださいましてありがとうございます。ぼんやりですが、断熱リフォームのイメージができてきました。断熱リフォームを成功させるためには、クリアしなければならないハードルが多いですが、何とかここ『奥会津只見』で、住み心地の良い家をつくりたいので、後ともアドバイスくださいますようお願いいたします.
2008.4.30
その後いろいろな資料を見ていたのですが、山形県米沢市の新住協会員米住建設さんが気になりました。
理由は、
1.距離が比較的近い。(※と言っても片道2時間ですが…)
2.住環境(※夏の暑さ・降雪の多さ)が比較的只見町に似ている。
3.HPの宣伝が充実している。 といったところです。
いろいろ調べれば調べるほど、只見町の立地条件が悪いことが分かり、どのように改修したら最もよい成果が得られるか考え、迷ってしまいます。何とか活路を見出したいところです。
2008.4.30
お返事ありがとうございます。初めてご返事いただいたときの、距離的に躊躇されている『米沢』の会員様は、やはり『米住建設』さんだったのですか。 まずは思いが通ずることを祈って、米住建設さんに直接連絡をとってみます。なお、ご興味ないかもしれませんが、後日、米住建設さんからの連絡結果をお知らせします。
2008.5.2
本日、米住建設さんに連絡が取れまして、思いの丈を聞いていただきました。(中略)5月中旬に時間を取っていただいたので、米沢に行ってみます。1歩前進してちょっと嬉しい気持ちになりました。教えていただいたとおり、直接連絡してよかったです。なんとか受注していただけるよう、頑張りたいと思います。
2008.5.5
昨日、米住建設さんの資料届きました。受注していただけるよう、よく読んでからお会いしたいと思います。
2008.5.15
昨日米住建設㈱に伺いまして、当該建物写真や地図を見ながら、古畑社長にお話を聞いていただきました。結果を申し上げますと、通いの施工は無理だが、現地の旅館に滞在したり、状況が整えば、プレハブを持ち込んで滞在して施工することも可能だと心強いお言葉をいただきました。私の『もしダメだったら…』という不安も杞憂に終わりホッとしているところです。
2008.6.5
ご無沙汰しております。本日米住建設の古畑社長より、6月21日午後に調査にお出でいただけるとメールがありました。
(中略)
追記:前回メールで、『NEDOの断熱リフォーム補助の可能性がある来年雪解け後』と施工時期についてお知らせしましたが、今後、予測される情勢(建材の上昇やリフォームローン金利上昇、来年度消費税の増加の可能性 etc)から、NEDO補助金が不確実な来年度を待つより、可能であれば今年度全ての工事を完了させたいという話を家族でしておりました。米住建設さんには、そのあたりも含めて相談させていただくことになりそうです。
2008.6.5(続き)
追記2:今回断熱リフォームにあわせて、設備リフォームも考えています。米住建設さんから、設備については、『地元業者でやっても構わない』という話がありましたので、当日は地元の大工さん、水道屋さんも同席する予定です。
2008.6.21
本日は遠方よりお出でいただきましてありがとうございました。いろいろと確認できてよかったです。こういった結果となり本当に感謝しております。 昨日いただいた、アンケートを母親に渡しチェックしてもらったところ、33個の○がつきました。「本当に暖かくなるの?」と半信半疑の母親をビックリさせてあげたいです。
アンケート内容
【▼何度かのメールやりとりをしたこの頃、この人は一体どんな経歴をもった人なのか知りたくなっ、立ち入った質問をさせてもらった。すると以下の返信があり、彼がまだ28歳の若者であることを知って正直驚き、それにしても偉いものだと世辞抜きに感心した。】
残念な事に町外で生活した経験がありません(涙)高校からそのまま町職員となったので早10年目です。同じ町の職員になるにも、一度町外から『只見町』がどのように映るか見たかった気がしますが…まぁ、町外で生活していたら便利すぎて、帰ってきてないかもしれないですね(笑)
現在は教育委員会で仕事をしていますが、従前は、総務企画課で町の情報基盤整備が担当でした。(中略)
当時、町による光ファイバ敷設の一大事業があり、NTT・福島県・只見町が一丸となり取組んだ結果、住民向け光サービスが開始されました。
只見町において都会と変わらないネット環境が整い、町民生活に新たな可能性が生まれ、当該事業に携った達成感がありました。
要領を得ない話ですが、何が言いたかったかといいますと、自分の生まれた町のために仕事が出来るというのは、嬉しい事だという事です。どんな一流企業に就職しても、自分の生まれた町のために力を尽くせる職場はそうはありません。
はじめは成り行きで就職した職場ではありますが、不便であっても、只見町にいる意義があると思いながら現在に至っています。
今回の自宅断熱リフォームは、只見町においてのモデルとなりたいと考えています。口で言っても近所のみんなは信用しません。自分が快適・省エネに過ごすのはもちろんですが、みんなに『正しい断熱リフォームをしたい』と思わせることも、今回の自宅改修の目標です。
2008.6.30
先週28日(土)に、米住建設の鈴木さんから、現在CADで設計図面を作成中との連絡がありました。今後QPEXでの計算を経て、積算するとのことでした。積算結果が待ち遠しい次第です。
2008.7.16
米住建設さんから断熱に関する見積りが上がりました。地元の大工・水道屋・電気屋に依頼する部分を含めると、私が考えていた総額を100万程度上回ってしまいそうな状況です。
米住建設さんにもこちらの予算は伝えておりましたので、見積書には代替案として屋根断熱方法のパターン2が提案されていました。
内容は現場吹付です。性能には差が出ないとの説明を受けております。 現場吹付との差額がちょうど約100万円であり、尚且つ、屋根の葺替えを要しないので、両者には150万円以上の差が出てきます。
2008.7.16(続き)
差額があまりにも大きいため、充填断熱で行く事に踏ん切りがつきません。 これに対する会沢さんの返答は、「グラスウール」ということは重々存じておりますが、両者の金額の開きが大きいのであえて相談させていただきました。何か経費を圧縮できるいい方法はないでしょうか?
2008.7.29
断熱関係の見積もりがまとまり、契約できるレベルにまでたどり着きました。現在、床下防湿工事を米住建設さんの指導の下、父と自主施工しております。
2008.7.30
屋根天井の断熱は申し訳ありませんが発泡ウレタンにさせていただきました。一番の理由はやはり経費です。地元の板金屋に雪が落ちやすいと言われる、フッ素系の葺替え見積もりを出してもらったところ、発泡ウレタンとの価格差が200万円を超えてしまいました。
また、先週古畑社長に来町いただき、屋根を充填断熱する際の手順を聞きました。クレーンが入れないなどの諸条件から、屋根面での作業が一部必要となり、手間による価格差が今以上に出るのは必至な状況でした。
まだまだ使える屋根が道連れとなり壊されることも、多少抵抗があり、最終的に発泡ウレタンでの施工と判断しました。
追記:床下にもぐってやる作業は慣れないので、結構大変ですが、親子で楽しくやっています(笑)
▼この時期、彼は断熱施工の一部に疑問を感じたと当方に確認があった。それは断熱材(高性能グラスウール)の施工に凹凸があるというものだったが、横胴縁の付加断熱で、表面に多少の凸凹があっても気流は流れない構成なので、性能に支障はないものだった。
2008.9.16
お世話になります。只見町の角田です。
現場の状況も心配ないとのことで安心しております。すでに後戻りは出来ない状況でしたが、心配であったため、相談させていただきました。なまじ断熱を勉強したばかりにあらぬ疑いを抱いてしまい、猛省中です。
内装の大工仕事は概ね終了し、現在外壁工事中です。米住建設さんの仕事量を『断熱・気密・換気』のみに絞った事で、思ったより安くすることができたと思います。米住建設さんには本当に感謝しております。
9月いっぱいで完成なので、あともう一息です。今現在でも朝方暖かく、日中室温が上がらない快適な状況が体験でき感動ものです。子どもの時以来、真冬が楽しみな今日この頃です。
2008.9.16
先日、米住建設さんから『おんどとり』2台送られ、1階と2階に一台ずつ置くよう指示がありました。2008年11月~2009年4月の期間で設定されているようです。昨年中にリフォームが決まっていれば、断熱前の温度環境をとっておきたかったのですが、昨年の今頃はリフォームの『リ』の字もなかったので、仕方ないですね。
そこで一つやってみたい事があります。それは、隣家にも『おんどとり』を設置するという事です。隣家は私の自宅に非常に似ており、述べ床面積約60坪で総2階の建物です。同じ気象条件下で温度をとることで、いいデータが取れるのではと考えています。
2008.9.19 表①
断熱改修したくても、出来る職人が『いる・いない』はかなり大きな差ですね。 私の家のリフォームが竣工したら、温度等のデータ提供、また実際町民及び職人に体験していただき、快適さを感じてもらうことで、断熱リフォームに向けさせることも計画しています 。
2008.10.20
こんばんは。角田です。
今回の気密測定には休暇をとり立ち会う予定です。どんな感じになるか楽しみです。只見の紅葉は高いところはいい色になってきました。平地はもうチョットですね。
都合よろしければぜひお出でください。
2008.10.25
昨日おんどとり届きました。11月までに隣家へ設置します。ありがとうございました。
只見は結構寒くなってきました。ここ数週間いい天気が続き比較的暖かかったのですが、最低気温で5℃程度にはなっています。しかし室内温度を確認すると、朝方でも17.5℃周辺をキープしているので暖房はしなくてもいい状態です。近所の家では暖房を使い始めているので、只見においても一月遅く暖房を始めることになりそうです
気密測定を実施していただきました。後日結果をいただけるようです。 (ちなみに測定結果は0.8c㎡/㎡)
2008.11.7
自宅と隣家に、『おんどとり』を無事設置しました。来春までのデータが楽しみです。
しかし本当に寒くならないですね。今まで氷点下の部屋だったところが、朝方でも16℃近辺を保っているのは、今まででは考えられません。本当に施工してよかったで
2008.1.6
只見では12月26~28日と雪が降り続き、すっかり雪景色となりました。寒さも最低気温で-5℃程度ですが、家の中は暖房なしの2階で常時15℃程度です。
2009.1.8
今朝方今季一番の寒さとなり-10℃を下回りました。室内では外気を全く実感ぜず、外出時に寒さを感じました。外気に左右されず断熱効果バッチリです。
2009.2.11
おんどとりのデータありがとうございました。こうやってみると面白いですね。
隣の家が氷点下4℃になっているのには驚きです。昨年までは我が家の状況も同じだったと思うと改修してよかったと思います。ちなみに我が家の2F「おんどとり」は暖房機のある場所には置いてなく、暖房もしていない状況です。
▼こうして、おそらくは只見で初の民家断熱改修工事完了した。結果はほぼ期待通りのようだ。80を過ぎた祖母に楽をさせたい、昨年4月に生まれた第一子をいい環境で育てたい、そして、只見の人みんなに冬を暖かく過ごせることを知って欲しい、そんな彼の思いがきっと通じるときがくると思う。
施工記録を見る
厳寒期にはいると室温がマイナスになってしまう近隣の家(青線)に比して、角田邸の室温(赤)は17℃前後。「33の○を付けた母がさかんに不思議がっている」と彼が言う。
表①
NO | i今住んでいる家のこんなことを改善したい | チェック欄 | NO | チェック欄 | |
1 | 朝はストーブをつけても部屋がなかなか暖まらない | ○ | 24 | 洗濯物が乾かなくて大変だ | ○ |
2 | 朝起きたとき、部屋の中で吐く息が真っ白な日がある | ○ | 25 | 台所の水仕事が寒くて苦になる | ○ |
3 | 朝起きるのが寒くてつらいことがある | ○ | 26 | 水道管凍結防止の水抜きを一冬に何度もする | |
4 | 冬でも朝シャンやシャワーを浴びたいと思う日がある | 27 | 家族に、寝るときに電気毛布を使う人がいる | ○ | |
5 | 家族がなかなか起きてこない | 28 | 寝るとき、布団がひんやり冷たい | ||
6 | 家族は家の中でも厚着をしている | ○ | 29 | 子供部屋にストーブがあるので危ないと思っている | ○ |
7 | 押入れがジメジメしている | 30 | 子供がストーブの前でよく席の奪い合いをしている | ○ | |
8 | サッシからしんしんと冷えているのがよくわかる | ○ | 31 | ストーブや炬燵、電気カーペットなど5台はある | ○ |
9 | 窓ガラスの結露がひどい | ○ | 32 | 電気やガス、灯油の暖房費がばかにならない | ○ |
10 | 窓のサッシが凍って開かない朝がある | ○ | 33 | 石油ストーブの灯油入れが原因で兄弟げんかがある | |
11 | 家の中から見る雪景色を綺麗だと感じたことが無い | 34 | トイレが寒くて長居できない | ○ | |
12 | 窓からの隙間風が冷たい | ○ | 35 | トイレや風呂で倒れた人を知っている(脳卒中) | |
13 | 結露水が流れるのでタオルを敷いておくことがある | ○ | 36 | 脱衣室や風呂が寒いので決死の思い出入浴することがある | ○ |
14 | とにかく家の中が寒い | ○ | 37 | 入浴中でも寒い日がある | ○ |
15 | 風の強い日は家の中でもスースーする | ○ | 38 | 洗髪するのが億劫だ(乾かないので) | |
16 | 土日の連休は会社などより家にいるほうが寒い | ○ | 39 | 足元が寒くて手足が冷たくなる | ○ |
17 | 冬は使わない部屋がある | 40 | 廊下に出ると床が氷のように冷たい | ○ | |
18 | 一日に何度か『寒いから戸を閉めろ』と誰かが怒鳴る | ○ | 41 | 廊下や台所の床が冷たくてスリッパなしではいられない | ○ |
19 | とにかく冬でものびのび暮したい | ○ | 42 | 玄関に濡れたコートや靴がいつも掛けてある | ○ |
20 | 会社や職場にいたほうが暖かい | ○ | 43 | 寝るとき、布団が冷たくてなかなか暖まらない | |
21 | 土日、家にいて風邪を引く | 44 | 押入れには布団がぎっしり詰まっている | ○ | |
22 | ビールは好きだが冬は冷たすぎてどうも、と思う | 45 | 掛け布団は毛布を入れると3枚以上になっている | ○ | |
23 | 趣味の園芸で温室が欲しい。観葉植物も越冬させたい | ○ | 46 | 家族の中に靴下を履いたまま寝る人がいる | ○ |
合計 | 33 |
豪雪厳寒の奥会津只見 断熱改修に挑んだ若者奮闘記(後編)施工記録を見る
マグレポート読者からの感想
前号では施工技術ではなく施主の断熱改修にかける意気込みを紹
介しました。するとレポートを読んだ同じ施主の立場となる新住協の
市民会員から次のような感想メールが届きました。
「今回のマグレポートは非常に興味深く見させていただきました。福島の角田さんの熱い思いが伝わりました。私は、角田さんほどのバイタリティはありませんが、同じような思いをもって新住協の市民会員にもなりました。今建築中の我が家をきっかけに、この地域にも本物の快適住宅を知ってもらいたい思いがあります。
岩手でも比較的温暖で雪がない地域で、断熱の概念が非常に乏しい地域です。冬は寒くて当たり前、廊下にでれば寒いのは当たり前、トイレだってお風呂だって、寒いのは当たり前って感じです。
一方で、あったかい家ということで、FPの家とか何か特殊な部材を使用した家もちらほらでてきています。特殊ではない一般的な断熱材で、断熱が効く施工で、適正な価格でできる新在来木造住宅を知ってもらいたいものです。
角田さんも言っていたと思いますが、快適さは説明しても伝わらない、とにかく体感、体験してもらうのが一番だと思います。今いる築45年の官舎は、朝部屋の温度計は、3~5度をさします。これが、16度をキープするという世界は本当にすばらしい快適性だと思います。これを、気仙地方に広めたいと思います。」
私は、こういう人たちの声を聞くたびに、この業界は、住宅をつくる側がもっともっと真面目にならなければいけないと考えてしまいます。今でこそ少なくなりましたが「この辺は北海道のように寒くないから・・」そういって高断熱住宅をつくらなかった(というより出来なかったのだが)のは施主ではなくいつも工務店側で、ユーザーはそう思っていないのです。罪なことをしてきたものです。
おらえは、ばがあったげーぞ奥会津の只見では11月にはもうすっかり暖房が必要です。普通の家では11月中旬には室内でも10℃を下回ります。工事を終えて迎えた初めての冬、それまでがまるで嘘のように、11月が過ぎ12月に入っても家の中が寒くなりません。
「おらえは、ばがあったけーぞ」(我が家はとても暖かいよ)と90歳になる角田家の祖母が近所に電話しているそうです。
1月に訪問した折、角田君の母がこう言っていました。「今までは、家の中で仕事をするときでさえ、手がかじかむくらいの寒さだったのに、今年はそれがないんだからホントに不思議だよね」。
かじかむという言葉、今では死語になっている都会もあろうか。考えても見て欲しい、12月には根雪で家の外では仕事が出来ないのです。けっして豊かではない山間部です。雪に閉ざされた地域では夜なべ(これも死語か)しなければならない生活を強いられていたのです。その住まいに断熱材が入っていないとしたら、これも世の中の不公平です。
この回のまとめとして再び施主の角田君に登場してもらう。
筆者インタビューへの回答です。
「来客は、ありきたりな言葉ですがみんな『暖かい』と言います。何度もいらっしゃる近所の方も玄関をくぐると毎回条件反射のように『暖かい』と話します。こういった無意識にでる『暖かい』と言う言葉を聞くと断熱改修してよかったと思います。当初思い描いていた改修に近いものが出来上がったと感じています。不満な点をいえば、給湯・暖房を灯油でやっていますが、灯油の消費は去年より多いようです。今までの局所暖房から全館暖房に変わったことを考えれば仕方がないかもしれません。また、出来ればNEDO等の国庫補助が欲しかったところですが、突然の計画だったこともあ何もない時期で残念でした。 内部について、間取りや間仕切りを変えたわけではないので部屋の高いところ低いところで温度差が4~5℃出てしまいます。(扇風機で調整している。)。
どれも暖かいことを考慮すればどうでもいいことではありますが、こういった『レベルの高い不満』しか感じません。 今後は『レベルの高い不満』を解消するよう、可能な範囲で手を掛けていきたいと思っています。後は只見町で高断熱の住宅を増やすことが目標です。底辺の拡大です。平成21年度には町営住宅も断熱改修をするので、地元の職人さんに研修してもらいながら施工をしていく予定です。
そこを足がかりに、安易にハウスメーカーに飛びつく状況を変えたいと思っています。」
こんな人を応援したくなりませんか、皆さん。
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